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ブータン日記
 
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ブータン・メンカン便り-19 1月12日  (※ 「メンカン」はブータンの言葉で「病院」)

 今年も日本では風邪の猛威が新聞紙面を賑わせているが、今年のブータンでは腹痛を訴えて来院する風邪の患者が多いようだ。伝統医学院ではそんな患者さん達に対し「セブ(Se-ahBru)」と呼ばれる生薬の入った薬が処方されている。食欲不振・下痢・腹痛などの訴えに対し6種類の異なった配合の丸薬が用意されている。なおブータンの市場においてもこの薬は非売品ですので、お求めの方は病院を尋ねて処方して頂くほかに入手方法はございません。

 風邪薬としては日本にも葛根湯などでお馴染みの生薬をもちいた漢方薬があり病院でもエキス剤として処方されている。しかし学術的に見るとその効果の程も未だ科学的解明の途中にあるそうだ。ある学者は漢方による効果は「プラシイボ効果」であると主張する。プラシイボ効果とはすなわち「思いこみ効果」、極端に言えば頭痛に薬効のない小麦粉を丸めたものを与えても、その効果を強く信じさせれば頭痛にも一定の効果が現れるというものである。一方中国の漢方薬よりも更に科学的な成分分析が遅れているブータンの薬についてはその薬効について疑問視されたとしても仕方がないことである。しかし病院スタッフ自らが山に登って原料となる薬草を集め、何十種類もの材料を丹念にブレンドし、薬師如来の加持をうけて完成した1粒の丸薬であると知った時、プラシイボ効果によって思わぬ効果も生まれそうなものである。

 以前、これに似た現地のお坊さん達の修法について話を聞いた事がある。1杯のお茶を目の前に、お茶の葉の成長や製造までのプロセス更にはこれに費やされた自然の恵み、火の力、人の汗、苦しみ、それらを意識しながら瞑想する。鮮明にそのイメージが頭の中に描けた時、目の前のお茶を手に取り頂戴すると言うものである。確かに古来よりお茶は薬としても有名ではあるが、味わい方によっては成分的薬効の他にも違った効き目というものが期待出来そうだ。それ以上に病気をとりまくライフスタイルにさえ思いもよらない影響がうまれる事も考えられる。以前、ニューヨークでカリブの島のホテルオーナーであるという女性から治療依頼をうけた。仕事の成功で誰もが羨むような彼女の立場であるにも関わらず彼女が診療に訪れた理由というのは「最近、幸福を感じない。感動が無い」と言うものであった。心の病と受け取れるが心体不二という考えの下、私が出来る事として体の不調を整えるということから始めたのだが、同時に上述の「ブータンのお茶」の話をしてみた。結果、彼女にとっては施した治療よりも耳にしたお茶の話の方に効果を実感出来たようであった。

 医療に携わるものとしては技と知識を蓄積すると共に、一般の方にも理解出来るような科学的に説明のできる治療を目指していくつもりだ。しかし日頃、見ている患者さん達の疾患の多くが生活環境や日頃の心のあり方など目に見えにくい原因に依存していると感じる。「便利さ」という恩恵の中では「不便さ」のプロセスに含まれていた「感動」や「感謝」という要素はついつい疎かになってしまうもの。日常の「心がけ」から生まれる病気の予防と治療効果について考えて行く事も大切なことのようだ。

  一言に「カゼ」といっても多様に複雑化し最近は油断の出来ない病気となっている昨今。衛生管理も当然必要ではあるが「病は気から」と言うように日頃の心がけからも風邪の予防に取り組んでいきたいものである。

高田忠典
 
 
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